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03 20
2014

男声合唱

歌う人のためではなく、聴く人のための男声合唱ガイド7 グルジアの男声合唱

トリオ・カフカシア 朝の微風――伝統的なグルジアの歌
★★
O Morning Breeze
O Morning Breeze

 ロシア、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャンという4つの国家、および黒海に囲まれたグルジアにおいては、古くから合唱が盛んだったようだ。11世紀から12世紀にかけて活躍したグルジアの哲学者イオアネ・ペトリツィは、3声のハーモニーについての記録を残している。この頃の西欧の合唱が斉唱もしくは二部合唱が大勢だったことを思えば驚異的である。そして、グルジア人は三部合唱という形態を今でも守り続けている。西ヨーロッパで主流となっている4声の合唱は、彼らの音楽においてはそれほど多くない。

 四部合唱という形態に慣れた方からは、どうして彼らは3声で歌っているのかという疑問を持たれるかもしれない。彼らに言わせれば、4パートにする必要がなかったということであろう。なぜなら、男女で一緒に歌う習慣があまりないからだ。グルジア人は男だけ、女だけで歌うことを好む。混声合唱では、男女ともに声の高い者、声の低い者がいるため、男女をそれぞれ2つに分けるのは自然な要求であろうが、男声合唱や女声合唱では必ずしも4つに分ける必要はない。ドミソは3パートだけで鳴らせる(1)。もし、彼らが3つで物足りないと感じればソロを入れればよいと考えた。こうすることで、単純に4声合唱にするよりも音色の対比が大きくなる。合唱では困難な技巧を1人の優れた歌い手にまかせることもできる。

(1)多少専門的な注。ドミソのうち、一番高い音をドにしたい場合、3声だと下の音から「ミ、ソ、ド」とするのが一般的であろう。「ド、ミ、ソ」を和音の基本形というのに対して、「ミ、ソ、ド」は第1転回形と呼ばれ、後者は前者よりも不安定な響きとなる。下のドを加えて「ド、ミ、ソ、ド」とすればより安定した和声となる。4声のメリットはこういったところにある。

 それにしても、3声の合唱を少なくとも900年にわたって守り続けるというのは尋常なことではない。日本のような島国とはまったく違う環境だ。歴史上、四方のあらゆる国々によって攻撃され、支配された。ローマ帝国から、トルコやロシア、ペルシアから、そしてモンゴル帝国からも。もちろん、すべての支配者がグルジアの音楽を保護したわけではない。宗教音楽の中心となった教会は幾度となく破壊されてきた。

 グルジアの合唱音楽を変化させようという圧力は戦争や政治だけではなく、おそらく外の合唱界にもあっただろう。「4声にしようじゃないか」という“外圧”にも長らく晒されてきたに違いない。しかしながら、グルジア人はある程度は4声を受容しつつも、それを中心にすることを望まなかった。なぜだろうか。

 グルジアの合唱を現地で聴いた大橋力によると、グルジア人の中には「ポリフォニーは自分たちがヨーロッパに教えてやったと考えている人が多」いのだという(2)。彼らが本当に西側に伝えたのかどうかはともかく、このような意識を持っているということが重要だ。彼らの、伝統を守ろうとする態度は、おそらく日本人のそれを相当上回っている。自分たちを守るには戦力を高めるだけではない。民族意識の向上が大事だと考えたのだろう。そして、それを高めるためには、自分たちの生み出したものを磨き上げ、守り抜き、そして後世に伝えるという心構えが重要だと、彼らは古くから気がついていたのだろう。だからこそ、外の「新しいもの」に対しても保守的にならざるを得ない。

 彼らの「戦略」は成功した。グルジアの音楽が世界に広く知られるようになってからは、グルジア人だけでなく、他の人たちも守るべきものだとみなすようになったのだ。その証拠に、ユネスコが2001年に無形文化遺産の登録を始めた時に、グルジアの多声合唱は1回目に選ばれるという偉業を成し遂げている。

(2)CD『サカルトベロ奇蹟のポリフォニー――東西の陸橋カフカズの合唱』(ビクターエンタテインメント)

   *  *  *

 トリオ・カフカシア(Trio Kavkasia)によるアルバムを聴いてみよう。カフカシアとはコーカサスのこと。3人のグルジア人……ではなくアメリカ人によって1994年に結成された三重唱団である。Wikipedia英語版にも彼らの記事があるから、そこそこ有名なのだろう。今までに3枚のCDを発売していて、今回紹介するものは2001年にリリースされた2枚目である。

 本当はもっと大人数の合唱団によるものを挙げるべきだろう。もちろん、そちらの方が迫力たっぷりだ。このCDをあえて紹介するのは、彼らの演奏の良さだけではない。グルジアの音楽の個性である3声を、各パート1人で(つまりソロと合唱の対比を行わずに)演奏するだけでもどれだけ豊かな音楽ができるか――それが伝わるのに実に好箇だと思ったからだ。25曲中6曲は伴奏つき。

   *  *  *

サカルトベロの奇蹟のポリフォニー / 東西の陸橋カフカズの合唱
サカルトベロの奇蹟のポリフォニー / 東西の陸橋カフカズの合唱
 先の録音と対照的なものとして、注でも紹介したCDを挙げる。15曲収録されており、前半の7曲は女声合唱。残りが男声合唱である。「メスティアの男声合唱団」による「ザリ」がとりわけ素晴らしい。「平均年齢75歳」であることを感じさせない。

 今回の文章を書くにあたって、二見淑子「グルジア民謡とグルジア正教会の聖歌――その発展と性格(特に音組織)」という論文を参考にしたが、このCDの12曲目「ハッサンベグラ」の歌詞が日本語訳で掲載されている。
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